ビターなフェロモン (短)
「……残念。俺だよ」
「さ、皐月くん……!」
わゎ、しまった!
よく見たら、直接手を握ってるし、蓮人くんのハズがないよ!
蓮人くんに握られたら、きっと私たちは今頃――
「桃子、大丈夫?」
「あ、うん。ごめんね、ありがとう」
「……ううん。無事でよかった」
少し元気がなさそうな顔で、皐月くんはほほ笑んだ。
私が名前を間違えちゃったから……。
「最近さ、蓮人と仲がいいよね」
「え、私が?」
「うん。普通に話せるようになってるし」
体勢を整えて、二人して階段を降りる。
クラスは違えど教室が隣同士だと、こういう時、長く話せるから嬉しい。
「ずっと蓮人と話せなかったのにさ。何かきっかけがあったの?」
「きっかけ……は、特にないよ。どうして?」
何気なく聞くと、皐月くんは眉を八の字にした。
そして「ごめんね」の一言。
「前は俺とだけ喋ってたのに……ってさ。ちょっと蓮人に嫉妬しちゃった」
「皐月くん……」
皐月くんが、蓮人くんに嫉妬?
私の事で……?