ビターなフェロモン (短)

「……残念。俺だよ」

「さ、皐月くん……!」


わゎ、しまった!

よく見たら、直接手を握ってるし、蓮人くんのハズがないよ!

蓮人くんに握られたら、きっと私たちは今頃――


「桃子、大丈夫?」

「あ、うん。ごめんね、ありがとう」

「……ううん。無事でよかった」


少し元気がなさそうな顔で、皐月くんはほほ笑んだ。

私が名前を間違えちゃったから……。


「最近さ、蓮人と仲がいいよね」

「え、私が?」

「うん。普通に話せるようになってるし」


体勢を整えて、二人して階段を降りる。

クラスは違えど教室が隣同士だと、こういう時、長く話せるから嬉しい。


「ずっと蓮人と話せなかったのにさ。何かきっかけがあったの?」

「きっかけ……は、特にないよ。どうして?」


何気なく聞くと、皐月くんは眉を八の字にした。

そして「ごめんね」の一言。


「前は俺とだけ喋ってたのに……ってさ。ちょっと蓮人に嫉妬しちゃった」

「皐月くん……」


皐月くんが、蓮人くんに嫉妬?

私の事で……?
< 57 / 75 >

この作品をシェア

pagetop