ビターなフェロモン (短)

「桃子も、さっきはビックリしたね。いきなり手を掴まれてさ。大丈夫だった?」

「うん。なんともないよ」


蓮人くんが、すぐ男子に言ってくれたしね。



――手、離したら?



蓮人くんは直接じゃなく、あんな風に間接的に優しい。

「怖いけど時々優しい」と――クラスの女子も頬を染めながら話していたのを、聞いたことある。


「……あ。あのさ、皐月くん」

「ん?」

「蓮人くんの鞄、私が持つよ。同じクラスだし」

「でも」

「その……恩返し、といいますか」


上手く説明できないでいると、皐月くんは察してくれたらしい。

「なるほどね」と頷いた後、蓮人くんの鞄を私に寄こした。


「昔から律儀だね、桃子は」

「でも……男子にあぁ言ってくれたのは、嬉しかったから」


ね、と恥ずかしまぎれに顔を傾けると、皐月くんが少しだけ頬を染めた。
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