ビターなフェロモン (短)

ガラッ


「あっちー。朝練なんてするもんじゃないな」


私が持っていた自分の鞄をサッと受け取り、私よりも先に教室に入ったのは――蓮人くん。

ガッツリ朝練をしたのか、制服に着替えた今も、髪から汗がぽたりと落ちている。


「きゃー、蓮人くん!」
「よ! 汗もしたたるイイ男!」

「なに言ってんだよ。それより誰かタオル持ってない? かしてほしいんだけど」


その一言は、クラス中の女子の目を光らせた。

皆そろって「私のを使って―!」と、蓮人くんを目指して突撃している。


「蓮人くん、これを!」
「いや、私のを!」

「一枚でいいって……」


女子に囲まれながらも、蓮人くんはツイッと目を私へ向ける。

そして皆にバレないように、左右に手を動かした。

……あ、今のうちに入れってことかな。


「……っ」


ありがとうと口パクで返して、席につく。

私が無事に着席したのを見た瞬間。

蓮人くんが「あ、タオル持ってたわ」と、全女子を落胆させるのだった。



ੈ✩


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