イルカの見る夢
 「ルビー……か」

 体力を使い切り、寝息を立てている斗李の横で、真凛は独り言ちる。

 彼女の小さな手には、自分自身とルビーが映った写真盾が握られていた。

 真凛に不思議な力なんてないが、イルカであるルビーが、自分自身を心底愛してくれていたであろう顔で笑っているのが分かる。

 真凛は重たい心持ちで目を閉じた。

 「ルビーに申し訳ないわ」

 (どれだけ大切な相棒だったとしても悲しい気持ちにはならない。まったく記憶がないから、夢物語を見ているような気分よ) 

 二年前、真凛が水族館のドルフィントレーナーをしているとき、我が子のように大切にしていたのがイルカのルビー。

 今の真凛と斗李との絆と匹敵するような深い繋がりが、過去に彼女とルビーの間にあったのは事実として残っている。

 しかし真凛は、とある事故でルビーとの記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。

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