イルカの見る夢
真凛は幼き頃から自由自在に海を泳ぎ、身軽に空を飛ぶ愛らしい姿のイルカに、魅せられていた。
気づけばイルカを水族館のショーで手懐けるドルフィントレーナーを志すようになり、
大学では海洋学を専攻。もちろん目的はイルカの生態について学ぶためだ。
同時に在学時は潜水の技術を磨くため、夏休みを利用してスキューバダイビングスクールに通い、
時間がかかりながらも、ドルフィントレーナーになるために必要な資格をすべて取得した。
そう――。彼女の人生のほとんどはイルカへ注がれていたといっても、過言ではない。
それまでの人生、顔も整っており気立てのいい彼女が異性に言い寄られることは少なくなかったが、
イルカへの愛と比較にもならず、男女関係に発展することはなかった。
そしてついに、真凛は二十二歳で大学を卒業し、水族館もドルフィントレーナーとして就職し、かけがえのない相棒……ルビーと出会った。
まだ水族館にきたばかりのルビーはショーの経験も浅く、真凛は未熟な自分の姿と重ね、肩の力が抜けた。
一緒に成長していく仲間ができたようでうれしかった。
プールから顔を出し、好奇心旺盛な様子で目の前にやってきたルビーの頭を真凛は優しく撫でる。
『一緒に頑張っていこうね、ルビー』
『ピィー、ピィー』
ふたりの夢のような時間がこのとき始まった……はずだった。