久我くん、聞いてないんですけど?!
「えっと、まずはうちの原材料を卸してくれている食品メーカーからね」

移動の電車の中で、久我くんに訪問先を説明する。

「いちごとマンゴーの果肉、抹茶とあずきの件を相談しようと思います。あとは、近くのうちの店舗に寄って店長からヒアリングしたり、お客様の様子もうかがってみるつもりです」

「分かりました。わざわざこちらからメーカーを訪問するんですね。ちょっと驚きました」

「そう?私はこれが普通だと思ってたけど」

「大抵、電話のやり取りで済ませるんじゃないですかね?でも僕がこの会社に入ろうと思ったのは、そういうサプライチェーンの構築がしっかりしているところに惹かれたからなんですけどね」

…なんですって?

「他のコーヒーチェーンと一線を画しているのは、そういった製造や加工、販売、供給までをきちんと管理出来ているからだと思うんです。会社としての体制やノウハウにとても興味がありました」

えっと、入社面接かな?
それなら採用決定ー!

うむ、と私は神妙に頷き、目的地の駅で降りる。

「あ、久我くん。1つ言っておきたいんだけど」

「何でしょうか?」

「私のことは苗字で呼んでください」

「どうしてですか?」

…は?
いやいや、てっきり「すみません!美鈴さんにつられて、つい…」って返ってくるかと思ってたよ。

だから「いいのよ、これから気をつけてくれれば」って返事も用意してたのよ。

なに?確信犯だったの?
わざと下の名前で呼んでたの?

「どうしてって…。あのね、会社では先輩を下の名前で呼んだりしないのよ」

「でも美鈴さんは呼んでますよね?」

「まあ、美鈴ちゃんだからね。でも久我くんはダメだよ。男の子なんだし」

ピクリと久我くんの眉が上がる。
お?またムッとした?

「分かりました。会社では呼びません」

ん?会社では?
では…って何?

そうこうしているうちに訪問先に着いてしまった。

ー閑話休題ー

私は顔なじみの社長さんに挨拶して、試作品についての説明と要望を伝えた。
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