久我くん、聞いてないんですけど?!
「さてと。駅前にうちの店舗があるから、休憩がてら行きましょうか」

訪問を終えると久我くんを連れて、やや小さめの店舗に入る。

「こんにちはー…。あれ?蒼井さん!」

40代の女性店長が、ゼロ円のスマイルで振り返ってくれた。

「こんにちは、松浦店長」

「イケメン連れてどうしたのー?デート?」

「ぶっ、違いますよ。ヒアリングと視察に来ました」

「イケメン連れて?」

なるほど。
早く紹介しろってことね。

「彼は新卒でうちに配属された久我くんです。久我くん、ここの店長の松浦さんよ」

「初めまして、久我と申します」

にこやかに頭を下げる久我くんに、店長はゼロ円スマイルをチャリンチャリンと炸裂させる。

「初めまして!いやー、見目麗しい。うちでバリスタやって欲しいわ。常連さんがドッと増えるのになー」

「いつでもヘルプに呼んでください」

久我くん!ほんとに呼ばれちゃうよ?

「えー、呼んじゃう!週3で来て!」

いや、店長。
目がマジですって。

「松浦さん、バックヤードでお話聞かせてもらえますか?久我くんは店内で何か飲みながら、お客様の様子をうかがってて」

分かりましたと言う久我くんを残し、私は店長の背中を押しながらバックヤードに向かった。
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