久我くん、聞いてないんですけど?!
「華さん?どうかしましたか?顔が真っ青ですけど」

なんとかウェーブを乗り越えて店内に戻ると、久我くんが顔を覗き込んできた。

「久我くん…、苗字で呼んでってば」

「ここ会社じゃないので大丈夫です」

「いや、大丈夫じゃない」

「やっぱり具合が悪いんですね?」

ん?話がすり替わってる。
もういいや。頭が働かない。

「バナナミルクにやられた…」

「そうなんですね!華さん、ちょっと腕見せてください」

「どうぞご自由に」

テーブルに突っ伏してぐったりと動けないでいると、久我くんが私の右腕をとる。

「やっぱり冷たい。鳥肌も立ってるし。ちょっと待っててください」

そう言って立ち上がると、すぐに戻って来た。

「華さん、白湯です。ゆっくり飲んで」

「ん…」

久我くんが口元に持ってきてくれた紙コップを、ゆっくりと口にする。

お腹の中がじわーっと温かくなった。

さらに久我くんは、着ていたスーツのジャケットを脱いで、私の肩に掛けてくれる。

「まだ寒いですか?」

「少し。でもさっきよりはマシかも」

「良かった。華さん、このまま直帰ってできますか?今17時過ぎなんですけど」

「あー、うん。課長に電話すればいいよって言ってくれると思う」

すると久我くんはすぐさま立ち上がり、外に電話をかけに行った。

「オッケーもらえました。華さん、行きましょう。立てますか?」

「生まれたての子鹿になるかも」

「じゃあ俺に掴まって」

「俺?久我くんの俺、初めて聞いたかも」

「いいから、ほら」

肩を貸してもらいながら店を出ると、タクシーが止まっていた。

いつの間に手配したのだろう。

久我くんは、よろける私を支えながらタクシーに乗り込んだ。
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