久我くん、聞いてないんですけど?!
「おはようございます」

「おはよう」

翌日。
何事もなかったように久我くんが出社して来た。

いや、何事もなかったんだから当たり前だ。

私は淡々と業務をこなし、試作品の資料を仕上げていく。

「蒼井さん。昨日の店舗視察の際、気づいた要点をまとめました。確認して頂けますか?」

隣のデスクから久我くんが書類を渡してくる。

うむ、よろしい。
私はうやうやしく受け取った。

目を通すと、客層やよくオーダーされていたメニュー、店内の雰囲気、改善できる点などが分かりやすくまとめられている。

「やはりあの店舗は、平日は女性の来店が多いですね。子連れのお母さんや若い高校生とか」

「そうね。新作メニューも、バニラやいちごミルクなどが喜ばれるかもって、松浦店長も話してました」

「店舗ごとに売り上げを予測して、仕入れの調整が必要ですね」

「ええ。これまでのデータも参考にしながら予測してみましょう」

「分かりました。資料作っておきます」

「ありがとう。よろしくね」

私と久我くんのやり取りを聞いていた美鈴ちゃんが、驚いたように目を丸くする。

「すごーい!デキル上司と部下って感じ」

あら、そうかしら?
いい気になって余裕ぶる。

いや、実際デキているのは久我くんだけだろう。
私は何も変わらないが、久我くんのお陰で一気に仕事がしやすくなり、多岐に渡って目を向けられるようになった。

課長にも褒められ、試作品のプレゼンも良い反応を得られる。

着々と夏の新作メニューの準備は進んでいた。

…バナナミルクはボツにした。
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