久我くん、聞いてないんですけど?!
「華、そろそろ下川さんに連絡入れないといけないんだが…」

自宅で夕食を食べていると、父さんが切り出した。

ああ、そうか。
あれから1か月以上経ってるもんね。

「先方からは、何か言われたの?」

「いや、常務ご本人からは相変わらず連絡はない。社長からそれとなく声をかけられたんだ。華さん、その後どうだろうかって」

忘れてた。
いや、思い出したくなかった。

でもいい加減動かないと。

「華。やっぱり乗り気じゃないんだろう?断ろうか?」

「ううん、大丈夫よ」

大丈夫ではないが、父さんの会社の為にはこうするしかない。

従業員50人程の小さな施工会社。
父さんはその社長だ。

大手の会社に押され、昔からの馴染みの顧客が離れていき、年々経営は悪化している。

このままでは、倒産の2文字が見えてくる。

父さんは決してそんな素振りは見せないが、毎日一緒に暮らしていれば分かってしまう。

仕事の量が減り、家にいることも増えてきたから。

そんな時に企業の集まりで、下川グループの社長に声をかけられたらしい。

確か結婚適齢期の娘さんがいたよね?と。

具体的に条件を提示された訳ではないが、息子とお見合いをして欲しいと頼んできた。

父さんも最初は、うちの娘など滅相もございません、と断ったらしい。

それでも下川社長は、ぜひ!と引き下がらず、父さんは私に見合いの話を持ち帰って来た。

とまあ、これが私があのキモ親子の茶番劇に巻き込まれた経緯だ。

世の女性の皆さん。
あなたなら断りますか?
断りますよね。

でも私はどうにかして前向きに考えようとしていた。
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