久我くん、聞いてないんですけど?!
「久我くん、ようこそ。かんぱーい!」

課長の音頭で、みんなは一斉に乾杯する。

久我くんはお誕生日席で、周りの上司と愛想良く会話をしている。

「あーん、もう。課長達、久我くん離してくれない。よーしこうなったら、さっさと課長達を酔わせて久我くん奪還よ!課長〜ぅ。お酒、お注ぎしま〜すぅ」

美鈴ちゃん、仕事の時もそれくらいやる気がみなぎってくれるといいな。

私は一番遠くの席で、ちびちびと手酌で飲む。

ふと目が合った久我くんがいきなりすくっと席を立ち、私の隣にやってきた。

「華さんに手酌はさせられません」

そう言ってグラスに注いでくれる。

「いいよ、気を遣わなくて。久我くん、クールなキャラだから無理してない?最近の男の子は、こういうお酒の席でお酌して回るの、面倒くさいって思うんでしょ?」

久我くんはキュッと眉を寄せた。
あ、またムッとしてる。
拗ねるといつもこんな顔するよね、久我くん。

何に拗ねてるんだろ?
小言のうるさいオバハンとか思われてるのか?

4歳違いだけど、22歳の久我くんからしたら、オバサンの類なのだろうか?

まあ、仕方ない。
私だって4歳も年下の男の子、どう接していいか分かんないしね。

美鈴ちゃんなら、1つ違いだから気が合うかも?
そう言えば、美鈴ちゃんはどうした?

キョロキョロ探すと、課長達に囲まれてヘベレケになっている美鈴ちゃんがいた。

あらら、酒は飲んでも呑まれるな、ですよ。
仕方ない、助け舟を出すか。

立ち上がろうとしたが、右手が動かない。

ん?なんだ?
視線を落とすと、テーブルの下で久我くんが私の右手を掴んでいるのが目に入った。

「久我くん?離して」

「嫌だ。離さない」

…は?なに、若者の逆襲?
だから無理して飲み会なんて来なくて良かったのに。

私は仕方なく座り直した。

「どうしたの?何か言いたいことでも溜まってる?」

「ものすごく溜まってる」

「そっか。まあ、入社して1か月以上経つと、色々見えてくるものあるよね。普段は言わないように我慢してたの?」

「めちゃくちゃ我慢してました」

「そうなの?言ってくれたら良かったのに。でも今からでも聞くよ。何を言いたかったの?」

「華さんが好きです」

ハナサンガ スキデス。
はなさんが すきです。

色々変換してみるがピンとこない。

「なに?はなさんって。花金の仲間?」

「違いますよ、あなたのことです。僕はあなたが好きです」

「あら、ありがとう。私も久我くんみたいにいい後輩ができて、ほんとに助かってるよ」

すると久我くんは、最大級にムッとした顔になる。

「ねえ、そんなに顔しかめてると、眉毛の間に梅干しできるよ。ほら」

久我くんの眉間のシワシワを触ると、パシッと手首を掴まれた。
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