久我くん、聞いてないんですけど?!
んんっ…と、声にならない吐息が漏れる。

両手で久我くんの胸を押し返すと、久我くんは右手で私の両手首を握り、動きを封じた。

唇ごと食べられそうなくらい熱く口づけられ、私は思わず喉を仰け反らせて息を吸う。

逃すまいと追いかけてくる久我くんの唇が、少し開いた私の唇を深く捕らえて舌を絡ませてきた。

頭がぼーっとして目に涙が浮かぶ。

最後にチュッと音を立てて私の唇から離れると、ようやく久我くんは身体を起こした。

前髪がサラリと額にかかり、肩で荒い息をする久我くんは、いつもの見慣れた久我くんとは別人だった。

「やべ…、マジで可愛い」

ポツリと呟くと、腕を私の背中に回して抱きしめる。

「ずっとこうしたかった。好きで好きでたまらなかった」

耳元でささやきながら、今度は私の頬や首筋、鎖骨にキスの雨を降らせる。

「……んっ」

こらえていても唇から甘い声が漏れてしまい、私は恥ずかしさに顔が真っ赤になるのを感じた。

「ねえ、待って。ほんとに待って!」

ポカポカと胸を叩くと、久我くんは少し顔を離して私の瞳を覗き込む。

「何?」

「あの、ちょっと怖くて…。私、こういうの初めてだから…」

次の瞬間、久我くんは大きく目を見開いて息を呑んだ。

「ほんとに?!」

「うん。言ったでしょ?恋愛に興味ないって」

「そのくせ婚約者はいたのに?」

「あれは、まあ、事情があって。別につき合ってた訳じゃないよ」

すると久我くんは、ヘナヘナとベッドに座り込んだ。

「…良かった」

心の底からホッとしたように呟く。

「アイツに(けが)されなくて、綺麗なままでいてくれて、本当に良かった」

そう言うと、起き上がった私の右手をとり、手の甲に優しくキスをする。

不覚にも、私の心はキュンとときめいてしまった。
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