久我くん、聞いてないんですけど?!
エレベーターでホテルのロビーまで下りると、外に出て駅への道を急ぐ。

楽しそうに腕を組んで歩くカップルを何組か追い越し、ズンズンと歩いた。

せっかくの休日。
見事なまでに台無しにされた。

お気に入りのワンピースを着てきた自分を、バカバカ!と責める。

いや、責めるべきは自分じゃない。
下川 清とその母親だ。(敬称略)

(さてと。どうしたもんかなぁ…)

空いている電車の車内で、これからのことを冷静に考える。

(断ることも出来るけど…。いや、断るべきなんだろうけど。でもなぁ…)

釣書もないままお見合いをしたが、まさかあんなにもインパクトのある相手だとは思わなかった。

(なんかすごすぎて、笑えてくる。ママ〜、だって。キモッ!)

いや、笑っている場合ではない。
断らなければ、あのキモ星人と結婚することになるのだ。

(どんな相手でも受け入れようと思ってたけど、さすがにあれは強烈だわ。でもまぁ『キモ川キモシ』だって、幸い私には興味ないようだし。割り切って戸籍上の仮面夫婦ならなんとかなる?)

我ながら怖いもの知らずの見上げた根性だと自画自賛しながら、自宅の最寄り駅で電車を降りた。
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