久我くん、聞いてないんですけど?!
やって来ました、新人くん
「ね、華さん。今日から新人さんが来ますよね。どんな人なのかなー?」

翌日の月曜日。
オフィスに出社すると、向かいの席の美鈴(みすず)ちゃんが声をかけてきた。

栗色に染めた髪をクルンと巻いた、少女漫画のヒロインのように可愛らしい雰囲気で、私より3つ年下の23歳。
入社2年目に入ったばかりだ。

初めて自分の後輩ができるとあって、嬉しそうにソワソワしている。

今日は4月15日。
4月1日に入社式を終え、2週間のオリエンテーションと新人研修を終えた新卒の社員が、今日からそれぞれの配属先でOJTに入る。

私の所属する経営戦略部商品開発課にも、1人配属される予定だった。

「そっか、今日からだっけ。どんな人なんだろうね?若い人かな?」

「何言ってるんですか、華さん。新卒なんだから当たり前でしょ?」

「あ、そうか。あはは」

「もう、華さん。興味なさすぎ!」

いやもう、昨日のキモ川キモシの衝撃から抜け出せないでいる私からしたら、どんな人でもウェルカムだ。

やがて始業時間を少し過ぎた頃、課長が「おはよう」と部屋に入って来た。

後ろに若い男の子を従えている。

「えー、みんないいかな?今日から我が商品開発課に配属になった久我くんだ」

「久我と申します。よろしくお願い致します」

キャッ、イケメン!と、美鈴ちゃんがグーにした両手を口元に当てて呟く。

なるほど、あれはイケメンの類なのか。

あまり男性に興味はないが、確かに顔立ちが整っている。

キモ川キモシとは雲泥の差だ。

みんなと一緒に歓迎の拍手をしていると、ふいに課長に名前を呼ばれた。

蒼井(あおい)くん」

「はい」

「君が久我くんの担当指導者になってくれ」

「かしこまりました」

やーん!華さん、いいなぁと美鈴ちゃんが声をかけてくる。

え、いいのか?何が?

「じゃあ久我くん。しばらくは蒼井くんについて、少しずつ仕事を覚えてくれるかな?デスクは蒼井くんの右隣ね」

課長に言われて久我くんは、はい、と頷いた。

「よろしくお願い致します」

早速私の右横のデスクまで来て頭を下げる。

「蒼井です。よろしくお願いします。どうぞ座ってください」

「はい、失礼致します」

いやー、ちゃんとしてるわ。
キモ川キモシよりも遥かに年下なのに。

「えっと、ではまずパソコンを立ち上げてください。毎日やるルーティーンを説明しますね。その後、今日は10時から会議があるので、一緒に参加してください」

「はい、分かりました」

視界の隅に、キラキラしたお目々の美鈴ちゃんが入り込むが、なんとかひと通り説明を終えた。

久我くんは頭の回転も速く、パソコンは私よりもよほど詳しいようで、教えるまでもなく次々とフォルダを開いては内容を把握していく。

「パソコンは問題なさそうね。10時10分前なので、そろそろ会議室に行きましょうか。今日は夏の新商品について、経営戦略部の他の課のメンバーと一緒に話し合います。部屋は5階のプレゼンルームです。あ、資料、久我くんの分も今印刷しますね」

「いえ、自分でやります。このファイルでしょうか?」

「えっと、はい、そうです」

パソコンからプリントアウトした資料をまとめると、久我くんはノートと筆記用具を手に立ち上がる。

「準備出来ました」

「じゃあ行きましょうか。美鈴ちゃんも行けそう?」

「はーい!準備バッチリでーす」

ソプラノ歌手にでもなったのか?と思うような声の美鈴ちゃんと一緒に、久我くんを5階のプレゼンルームに連れて行く。

部屋に入ると、既に何人かが席に着いて雑談していた。
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