久我くん、聞いてないんですけど?!
「あーもう、お腹がたぷたぷー」

翌日。
早速私と美鈴ちゃんと久我くんで試作品に取りかかったが、美鈴ちゃんが早くもギブアップした。

「私、うちのコーヒーショップに毎日通い詰めるくらい好きだったからこの会社に入りましたけど、仕事で飲むようになってから、そんなに美味しいと思わなくなっちゃいました」

デスクに頬杖をついて、美鈴ちゃんは頬をふくらませる。

仕草は可愛いが、セリフはなかなかシビアだ。

「なんか新鮮な気持ちで飲めなくなっちゃって…。昔は大好きだったのになぁ」

まあ、気持ちは分かる。
なんだってそうだろう。

好きなものは仕事にはしない方がいいのだ。

「久我くんは、まだ飲み飽きてない?」

美鈴ちゃんが聞くと、久我くんは、そうですね…と少し間を置いて考えている。

「もともとコーヒーは好きですし、その日の気分で飲みたい種類も違うので、飽きたりはしてないです。ただ商品を考えるとなると、単純に自分の好みだけでは決められないですよね。そこが難しいなと感じています」

うーむ、やるな。
入社2週間でその玄人感。
なかなかだぞ、おぬし。

「じゃあさ、つき合ってる女の子にもすぐに飽きたりしない?」

ガクッ。
美鈴ちゃん、話がぶっ飛びすぎ。

「そうですねぇ…」

久我くん、真面目に答えようとしなくていいから!

「女性に対して飽きる、なんて失礼な気持ちは持ちません。そもそも恋愛は、相手と二人で育んでいくものですよね?飽きるって考えは、自分が相手の女性に対してきちんと向き合わなくなっただけだと思います。相手ではなく、自分自身の問題かと」

なんてできた人なんだ。
本当に22歳か?

「ふぅん…。ね、久我くんってどんな女の子がタイプなの?」

美鈴ちゃん、今の久我くんの名言は心に留めましたか?

「タイプは考えたことないですね。なんだか人を分類分けするみたいでおこがましいですし。相手の女性の人柄を見て好きになります」

模範解答。
大人かっ?!

「じゃあさ、美人系と可愛い系はどっちが好き?」

…美鈴ちゃん。
子どもかっ?!

そろそろ止めよう。
担当指導者だし。

「美鈴ちゃん、私語はその辺でね。ほら、仕事に戻ろう」

「華さん、もうお昼休憩入ってますよ」

「え?やだ、ほんとだ!5分も過ぎてる。教えてくれれば良かったのに」

「久我くんの話を聞きたくて黙ってました」

美鈴ちゃん、策士だ。(黙っていれば)

「じゃあ早く片付けてお昼にしよう。ごめんね、久我くん」

「いえ、大丈夫です」

急いで片付けてから社食に向かう。

美鈴ちゃん、久我くんにずっとしゃべりかけながら歩いているのは、そのまま社食に連れ込もうって魂胆ね?

やっぱり策士だ。

まんまと嵌められた久我くんは、私達と同じテーブルで日替わり定食を食べることになった。
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