たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~


「どうしても理解(わか)ってあげたい人がいるの。嫌な記憶を思い出させてしまうけど……少しだけ,昔の話,聞かせてくれないかなぁ」



レナルドおじさんは見開いていた目を短く細めると,コップを磨こうとしていた手を止める。



「エヴァちゃんは……本当にいつまでも優しくて愛らしい子じゃな」



その言葉は,いつの間にか叱られている子供のように小さくなっていた私の心にじんわりと響いた。



「レナルドおじさん……」



おじさんと言うよりは,おじいちゃん,祖父のような人。



「そうじゃな,まずは話を聞かせてくれないか。事情は共通するものではないからの。ワシの話を聞いたところで,解決にはならんじゃろて」

「あ……そうね,そうだよね。私も,うまく話せるか分からないんだけど……」



少しずつ,私の目に映っていた景色を伝えていく。

途中でレナルドおじさんは珈琲をご馳走してくれて,私も頭を整えながら話した。

私が初めてレナルドおじさんを見たのは,10年以上前の事だった。

迷子の疑いで街の人に連れられて,レナルドおじさんはあの日教会へやって来たのだと言う。

私がじっと見ていると,おじさんはぼーっとどこか遠くを見つめていて,時折乾いた頬を涙で濡らしたり,体を小さく畳んだりしていた。


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