たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
ポプリを作りたいと部屋に飾るお花を買いに向かった日,小さなそのお花屋さんの中におじいさんは立っていた。
菊の花を2輪,大切そうに選んで。
聞くと,奥さまと息子を亡くされて長く気を落としていたのだと言う。
レナルドおじさんは失礼な行為をした私のことを覚えていて。
けれど,寧ろまた会いたかったのだと言ってくれた。
再開した日には,初めて見たときよりも元気になっていて。
それからは元やっていた時計屋さんを1度畳み,カフェをオープンして,時々持ち込まれた古時計を直したりもしている。
長く,私の瞳が好きだと言って,孫のように可愛がってくれた。
だから,エルさんを元気付ける方法を,知っているのではないかと思ったのだ。
「エヴァちゃん。ワシが元気になることが出来たのは,君に出会えたからなんじゃよ。エヴァちゃんの純粋な瞳を思い出すと,幸せな未来さえ見通せる気がしたんじゃ」
ふいに,一通り話を聞き終えたレナルドおじさんは言った。
「今が過去になる,そして過去が未来に繋がるんじゃ。ワシにとってのエヴァちゃんのように,その人にもかけがえのない人がいたらきっと良くなるよ」
(でも……)
とても長い時間を,私はエルさんと過ごしていた。
「私じゃ,だめだったのかな」
悲しみをそのまま乗せてコップに言葉が落ちる。
深い色が,波紋に揺れた。