たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
ーコンコンコン
予想だにしない戸の音に,私は次の動きを逡巡する。
まるで近所の庭に洗濯物を飛ばしてしまった時のような,はたまた仕事で郵便物を届けに来た人のような。
そんな気楽な音が,私の返事を待っていた。
近くのマントを身に纏い,フードを深く被る。
「……どなた?」
魔法を発現させる準備だけに留めて,ドアノブを回すと
「わっ……お姉さん? えへへ,こんにちは」
そこには昨日別れたはずの娘が,あの能天気な顔で立っていた。
「わざわざ時間をかけて訪ねてきたの? もう来るなって言わなかったかしら」
(昨日も来る時は完全に迷っていたはず。帰りもトロッコだったのに,自力で真っ直ぐやって来るなんて)
「言われてないよ? あれ,だめだった……?」