たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~

魔女は同年代の男を好いていて,男が魔女の出身を知らないことを除けば,概ね良好で満更でもない関係だったらしい。

そうして逢瀬を重ねるうちに,魔女の純粋さを目の当たりにする周囲は密かに応援する空気となる。

中でも2人の入店を受け入れるbarの店主は,最初から2人を微笑ましく思っていたという。

ある日,度々訪れる魔女の存在が受け入れられつつある状況に,国の上層部で会議が開かれた。

当時の会議で,魔女の排除はすんなりと決まってしまった。

そうしてbarにやって来たのが,酔った男だ。

彼は兵士の中で有志として選ばれた,魔女を怒らせるための囮。

民意を傾けるわけには行かないと,魔女自身に排除される理由を作らせようとしたのだ。

しかし寛容な魔女は何を言っても怒らなかった。

寧ろ痺れを切らしたボーイフレンドが立ち上がり,兵士に掴みかかると,抵抗した兵士によって一般市民のはずの彼は殴られてしまう。

それを見た魔女が怒り周囲を発火させてしまったために,卑劣な作戦は概ね滞りなく進んでしまった。

直ぐに待ち構えていた兵士達がやって来て,魔女は言い訳をする間も無く武器を向けられた。

謝ったり弁解したり店の炎上を止めようと動く魔女を,兵士は市民に見えないよう取り囲んだ。

魔女の素直さや直ぐに立て直そうとする機転の早さ,そして何より魔法の威力は,国の誰の想像をも越えていた。

そこで兵士が思い付いたのが,噎せながらbarを脱出した男を人質にすることだった。

男はきつく捕らえられ,詰められた魔女は抵抗する選択肢を失った。

魔女も男も捕らわれて,魔女は国を燃やす尽くす悪役として新聞を飾った。

魔女は男と隔離され,しばらく外の状況など分からなかった。

そしてふいをついて抜け出した魔女は,目には目をと王を脅すことになる。

王を後ろから捕らえて,魔女は言った。



『もう二度と,こんな国には来ない! だから,彼を解放して。家に,返してあげて』

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