たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~


魔女の癖にとんだ茶番だと笑われながら,魔女は繰り返し求めたたけれど。

耳を貸すものなどいなかった。

脅しでないと伝えるために,開いた窓から見えた森の一部を燃やした。

ようやく危機感を抱いた兵士の1人は,魔女の望む男を引きずって王の場所へ戻ってくると



『王と交換だ』



横柄な態度で魔女に応じる。

魔女はつんと力強く,果敢にはねのけた。



『馬鹿言わないで。ここにいるのは一国の王よ。殺すことなど容易いのだから,黙って彼を離しなさい。話はそれからよ』



魔女はまさか,一国の王を一介の兵士が見捨てるなんてたとえ星がひっくり返ってもありえないと思っていた。

そんな魔女を,兵士が鼻で笑ったのだ。



『王の代わりは別にいるが,魔女にとってのこいつは他にはいない。最悪どちらも死ぬだけだ。それでいいのか? ……分かったら抵抗するな』



男の呻き声を聞いて,魔女は動くことなど出来なくなった。

人質が人質として機能しないのなら,こんなことなんの意味もないと諦めてしまった。

純粋で可哀想な魔女は,自分の命以上を要求される。



『魔女の村はどこにある? 国のそばにいるからこんなことになるのだ。場所さえ教えて立ち退けば,この国はもう2度と干渉しないと誓おう』

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