たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
エヴィーなら,たとえどんなものでも大切にしたはずだ。
わざわざ身から外して置いていく必要なんてない。
「まさか……」
ベッキーが顔色を変える。
ダニーは険しい顔をして
「エルヴィスさんを取り戻しに直訴しに行ったのか……?」
しんと,その言葉に部屋全体が静まり返った。
今,エヴィーの大事なお義父さんであるエルヴィスさんは,城の地下で不当に幽閉されている。
街の人に暴露して手を借りてもいいけど
(無事かどうかも,幽閉場所の正確な位置も分からないまま,暴動なんて起こしても他人を危険にさらすだけ)
実は僕たちはまだ,エルヴィスさん救出に少しも動けていなかった。
仲の良かった父娘,エヴィーにとってはたった1人の家族。
エヴィーが僕らの対応を待ちかねたというのならそれまでだけど。
深く考えて,その静寂を打ち破る。
「いや,違う」
(交渉材料も,なんの情報もない今。エヴィーが動く理由はない。エヴィーはそんな馬鹿な女の子じゃない)
僕のはっきりとした断言に,2人が僕を見た。