たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
彼女へ馳せる想い
「ハリエルさま,ハリエル様」
昔と比べると7年程前,僕がまだ学生だった頃を思うと少し覇気の弱まった女性の声。
かつて通っていた学校唯一の先生だったクレア·バートンに声をかけられて,僕は遠退いていた意識を取り戻した。
「ミス·クレア。えっと,なんだったっけ」
「大したことではありません。ただ,先ほど何をいいかけたのですかとお尋ねしたのです」
「ああ,それか。今日は何だか騒がしいねと言ったんですよ」
僕は7年前の,最初で最後のプロポーズを決意したあの日から。
ずっと外の世界を見ることなく生きている。
毎日同じ部屋に起き,毎日運ばれてくる食事をとり,皇太子としての書類仕事に従事している。
余った時間は自由を許されているけれど,それでも外に出ることは叶わない。
どうしてそんなことになったかと言えば,僕が父王の反感を買ったからとただそれだけしか分からないけれど。
ただ明確なのは,僕が先を焦りすぎたこと,自分を過信しすぎたこと,そして父王との"賭け"に負けたこと。
7年も前の事なのに,その時が今も鮮明に浮かぶのは,悔しさと切なさと,彼女への愛しさを忘れられないからだ。
僕に求められる"らしさ"は,いつも世間のらしさとはかけ離れていて。
あの日だけは,世間一般の,学生の真似事をしたがってしまった。