たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~



(声が震えてる)



指摘しないのが僕の優しさだ。

その似合わない涙も,落ちない限りは見ないふりをしてあげる。

それは僕が2人のそれを,エヴィーを裏切るようなことではないと思ったからだった。



「っあ」



ベッキーの声と同時,僕は腰を浮かして走り出す。

慌てて剣を抜き,僕はダニーの前に立ちはだかった。

つんざくような,命を奪う音が響き渡る。



「っダニエル!!」



僕が目の前で名前を呼ぶと,ダニーは目を大きくして僕を見返した。



「……悪い」



強く僕がその目を見つめると,少ししたのちにダニーは瞳を落とす。



「いや,分かってる。……ダニーは少し休んでろ」



僕も首をふって,抜いた剣を鞘におさめた。



(どんな夢を見たのか知らないけど,珍しいこともあるもんだな)

ーダニーが人を殺しそうになるなんて。
< 205 / 238 >

この作品をシェア

pagetop