たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「あの方はこの国の第一王子,つまり皇太子であらせられるお方ですぞ」
「なっっ?! でもだって,皇太子って……あの」
ベッキーが驚いたのも無理はない。
皇太子は僕たちがほんの子供だった時から姿を現さなくなった存在で,もう10年近く急病で伏せているはずだ。
だが健康そうな姿を見るに,それすらも嘘と,そういうことになる。
「その皇太子です。あの方ははアリエル·アーシアと共に研究を行っていた唯一の人間でもあり,今や彼女を越えていてもおかしくはありません」
ダニーが目を見開くのを,僕は見た。
エヴィーを越え,さらにあの森の女性をも越えるやもしれない人。
そんな人がいるのかと,僕自身も驚愕する。
あの力は,一緒に過ごした程度で手にはいるものではない。
「どうして今まで」
極当然のベッキーの呟きに,男は目を閉じた。
「あの方は自室に籠り,皇太子として時期国王としての教育を受けていました。また,それはアリエル·アーシア討伐のための期間でもあり,魔法も磨いておりましたが,如何せん国王による軟禁とも言える形でしたので,彼女の事は何も知らされていなかったのです」
演技がかった口調が,もう少し続く。