たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「しかし旧友であった彼女を止めるため,討伐に名乗りをあげてくださったのです」
そこで,皇太子だという男性が僕たちの会話が聞こえる距離までやってきた。
「……初めまして。ハリエルと言います。魔女討伐のため呼ばれて来たんだ。よろしく」
柔らかく微笑んで,綺麗な顔立ちの男性が僕たちを見る。
横を見ると,2人が困惑して呆気に取られていた。
だからなのか,ハリエルと名乗る皇太子は僕を見つめていた。
僕によく似ている。
僕はそんな風に感じてしまった。
どこがと言われたら,雰囲気としか言えないのかもしれないけど,強いて言うなら笑顔の作り方。
あれは,怒っていても,悲しんでいても,どんな時でも笑える人間の器用で悲しい作り方だ。
何もこもっていない,寧ろ隠すような,守るような笑顔だ。
僕もエヴィーのためなら,あんな風に完璧で優しく笑えるだろうと思う。
「……ほんとうに,森の魔女を越えると言うのね?」
(ベッキー?)
顎を引いて,拳を握ったベッキーは睨み付けるように皇太子をみていた。