たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「ダニー」



もう,彼にかける言葉など無い。

ただもうここにいるわけにいかないからと呼び掛ける。

魔力の消耗も,気にする必要がないだろと見つめ続けると,ダニーは大量の砂を発現させぐったりとなだれおりてきた。

のそのそと動き出したしゃくりあげるベッキーからも目をそらして,ハリエルさまを置いていくわけにもいかずに森の奥に進む。

それ以上進まない僕たちを見て眉をひそめるアリエルさんの前に,僕たちと入れ替わったハリエルさまが出た。

初めて見開かれ,純粋な感情を表したアリエルさんが見える。

ここから先は,僕たちが目にしていいものではない気がして,僕は目を伏せた。

ダニーとベッキーから微かな困惑を感じる。

この状況でまだハリエルさまが出ていく理由が分からなかったのだと思った。

僕が勝手に気付いていただけで,2人はハリエルさまの本心に気付いていないのだ。

邪魔だけはしないように,ここで待機だと小さく示す。

アリエルさんはどう反応したらいいのか分からないように,顔を歪めてみたり,目をつり上げてみたり,最後にはおろおろと目線を落としていた。



「アリー」



親しげに落とされた愛称を聞いて,空気が揺れたのが分かる。

意図して見ないようにしていても,アリエルさんの瞳が揺れているのが簡単に脳裏に浮かんだ。
< 225 / 238 >

この作品をシェア

pagetop