たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~

諸刃の剣


ーハリエルsideー



「アリー」



そう,震わせずに呼び掛けることなど出来なかった。

愛しくて,懐かしくて,可哀想で。

どうして気付けなかったんだろう。

僕にあんな真似が出来る父親なのに,どうして期待するばかりでまともな抵抗をしなかったんだろう。

何年も経って,ようやく目に映した彼女は。

昔より,ずっと綺麗な女性(ひと)だった。

少し痩せて,見も心もぼろぼろで,あの頃の無邪気な姿はない。

静かで,かろうじて落ち着いた,凛とした佇まい。

だけど,純粋な瞳は,何も変わっていなかった。

今にも泣き出しそうな顔をしながら,それをずっと奥に隠してる。

どうしたら僕は,アリエル·アーシアに許して貰えるだろう。

どうしたら僕は,彼女を抱き締めて,救ってあげられるだろう。

僕には無理なのかもしれない。

その資格を,とうの昔に失っているのかもしれない。

それでも願ってしまった。

もう一度だけ,アリーと話がしたい。



『なかなかいいできじゃない?』

『そうね。こんなのに足を引っ掻けて気付かない間抜けな侵入者がいてくれるなら』

『『ふ』』
 


あの頃ですら笑っていた君なら,もっと完璧でいいものが作れたはずなのに。

自分の命を守る大事な装置を,学生の頃に考えたおもちゃにするなんて。

どんなことでもいい,何をいわれてもいいから。

強く視線を向けると,アリーは数秒固まって。

観念したように眉を垂らすと,そのまま何かを諦めるように斜めに顔を落とした。

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