たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
エピローグー壊れた日常ー
残された元勇者のパーティーは,悲劇の現場を離れた森のなかに,項垂れるように腰を下ろしていた。
せめて,活力になる目的を探すようにぽつりと溢したノアの言葉に,ハリエルから小さな希望を渡される。
「えっ……じゃあエルヴィスさんは」
「僕が出てくるときに,ちゃんと他所の国に逃がしておいたよ。詳しい場所は後で伝えるね。エルヴィスさんには……住む場所と資金しか渡せなかったけど」
エヴィーについても言付けられていたハリエルは,そこで暗く言葉を区切った。
何かを察したノアもまた,エヴィーの姿を思い出し,目を伏せる。
「僕は,この森を抜けたら」
躊躇いに区切られた言葉に,全員がノアを向いた。
「王を,この国の頭を……撃ち殺してしまうかもしれない。ハリエルさまの身内,国で1番尊いはずの人を」
膝の上で,ノアが拳を震わせる。
それを切なく見つめるハリエルもまた,ぐっと喉を絞めた。
「それは……どうかやめて貰えないかな。僕だって,あの人がたとえ何人もいたとしても,全員殺したって足りないくらい憎い。だけど,もう何も出来ないように,1番生活の苦しい場所に連れていくから」
ノアが間をおいて頷き,何も発することの出来なくなった他の二人を向く。
そばには,エヴィーの眠る箱が置いてあった。
ノアとハリエルが丁寧に下ろしたものだ。
それを見ると,ノアは切なくうずく胸を隠しきれなくなる。
今は少し土がついているものの,最初はホコリひとつない綺麗な箱だった。
ダニーはすがるように一歩離れエヴィーを見ている。
ベッキーは懺悔するように,後悔で焦点の合わない瞳からハラハラと涙を流し脱力していた。