たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
この場にいる全て,衝撃的なアリエルの死を目の前で目撃している。
雲行きの怪しいやり取りに,目を奪われたからだった。
感情の乗ったダニーは,まだ動ける。
しかし,ベッキーは前のようには戻れないのが誰の目にも明らかだった。
ハリーが,同情するように全員の顔を見渡す。
そして,自身も軽く息を吐き目を閉じた。
(死んでしまいたい)
そうできないのは分かっていた。
目を閉じると,消えかけたライターをカチカチと押すように,大人になったアリエルの紡いだ言葉や見せた姿が浮かぶ。
けれど目を開けているよりはましだ。
せめて現実とは違い,アリエルの声が聞こえるから。
「ハリエルさま,ハリエルさ,ま? ……よかった,寝てるだけか。はは……そりゃ疲れるよな……はは。どうせこんな状態で帰れない。僕も,少しだけ,少しだけ休もう。後のことは,あとでいい。……あぁ……しんどいなあ,ほんとに」