たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「だめなのエルさん。私もお願いしたことあるんだけど,ちょっと過保護で……エルさんの事,詳しく話せたら許可してくれると思うんだけど」
それは無理だと分かっているから,今までエヴィーも口にしなかったのだろう。
「じゃあこの雨の中歩いて帰るの? ここは山よ。外を見ればきっと両親や友達も分かってくれるわ」
「うん。分かってる。でも大丈夫よエルさん」
エヴィーは自分の身体能力に自信があるようで,直ぐにでも帰ろうとしていた。
5分程度の道ならまだしも,森の真ん中に建てたせいで街までは遠い。
エヴィーは頑なで,止めても勝手に出ていく予感がする。
「はあ……じゃあトロッコをつたって帰りなさい。少なくとも,崖から落ちる心配はなくなるから」
(まさか私が,わざわざこんな心配をする日が来るなんて)
ここはこの子の家ではないのに。
私の家かと言われれば,エヴィーが来てからは多少の実感がわくようになっていたけど。
だからって誰からも隔離されたこの場所で,住んでもいいなんて口にすることがあるとは思わなかった。
「じゃあね,師匠。また明日!」
「雨が降ってたら来ちゃだめよ。これは師匠命令だから,ちゃんと聞きなさい。じゃなきゃ2度と敷居は跨がせないわ」
「ふふ。はーい」