たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~


(森を出るまで,森を出るまでなんだから。これは師匠としての務めであって,それ以上じゃないわ)



息を殺して後を追う。

気配を消すなんて,日頃相手をしている人の真似をすれば簡単だった。



「んー,よっと。わっ真っ暗! 急がないと!!」



森を抜け,無事にエヴィーが駆けていく。

私も静かに踵を返そうとしたその時,遠くからエヴィーに何者かが近づいた。



「エヴァ様!」



ぱたぱたと,その音だけで相手が複数人であることが分かる。



「え……っ。あれ? みんな!」



声の主は中々の年配だったけれど,エヴィーは軽く驚いただけで,親しげに迎えた。



(あれ……は)



多数から傘を向けられて,恥ずかしそうに微笑むエヴィー。

それを取り囲む大人達は,雨に霞む,真っ白な白装束に真っ白なコートで身を包んでいる。

この国において,白は,特別な意味をもっていた。

白は,この国で信仰を掲げる唯一の機関,"教会"のシンボルカラー。

それを全身に纏う彼らはそれだけで大きな力を持ち,民には尊敬され,ついには『我らかしずくは神のみなり』と王侯貴族を恐れない声明を出すに至っている。

本来,彼らが敬称を付ける相手なんていないも同然だというのに。

たかが小娘(エヴィー)相手にあたふたとしている様子は,異様にも見えた。



(エヴィー,あなたは一体)



私は本来の目的を達成したことも忘れて,気の影から様子を伺い続ける。
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