たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
もう,夢に見ることさえなくなったはずの後ろ姿。
私が望めば,彼は振り向いた。
『ハリー』
久しぶりね。
そう声をかけたかったけど,夢に見るハリーはあの頃のまま。
大人になった私の姿は,2人の軋轢と時間を思わせる。
2人で過ごした時間も,あの研究室も,2人で出した発明も。
全てが宝物で,あの頃はまだ,私も純粋なままでいられた。
2人の世界は壊れないと,勘違い甚だしくも思っていた。
ハリーのフルネームは,ハリエル,ただそれだけ。
唯一苗字を持たない王の家系の第一皇子,それが私の恋したハリーだった。
対する私は,少し人より頭がよくて,少し人より贔屓にされて。
数年も先の将来に爵位を約束されただけの,"平民"だった。
けれどいつも対等で,仲良しで,幸せで。
『今日の夜,外で逢える? ──に伝えたいことがあるんだ』