たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「えへへ。ないしょだよ。いつも黙っててくれてありがとう」
エルさんの教えてくれたことは,毎日かかさず皆や年下の子供たち数人に共有している。
その代わり,その全員に私がどこからか教わって来ている事を黙っていて貰っているのだ。
私達に"依頼"を出した上司のような人にも,つまり一切に対して黙っていて貰っている。
あまりに常識から隔絶した能力に,その上司は時々眉を潜めることもあるけれど。
その対策に,表向きには私が自分で研究した結果,ということになっていた。
取り敢えずでも通っている皆と違い,登校免除を利用している時間に……
と正面から堂々として見せていれば,その人ももう何も言わない。
ニコニコと対応している間,他の皆は目を伏せていることが多いけど。
それで十分だった。
私達の成長が著しいことも,干渉されない理由の1つだと思う。
あの人の私達への経過観察もまた,ただの仕事であり。
私達さえ順調に,"対魔女"の戦力として立派な魔導師に育てば,それ以上は無いのだから。
「ダニ-。何もしてくれようとしなくていいの。だから……もう少しだけ,抱き締めてくれる?」
へへ,と笑いかければ,ダニーは私の小さな体をもう一度抱き締めてくれた。
いつ誰が通るかも分からない廊下で,掃除してあるとは言えお尻まで着けて抱き締めてくれるのは,ダニ-だけだと思う。
泣いた姿など1度も見せたことがなかったと言うのに,当たり前のように慰めてくれた。
それがどんなに安心するかなんて
(ダニ-に出逢えて,良かった)
きっとダニーには分からないのだろう。