エリート弁護士の執着愛
「仙崎さん……君のお父上からよく娘自慢をされていたんだ。写真もよく見せてもらっていた。だから、君と初めて会ったようには思わなかった」
「でもあの、どうしてバーで私に声をかけたんですか?」
「あのとき言った言葉は本心だ。可愛いのに落ち込んだ顔をしているのはもったいないと思った。しかも耳をそばだてていたら、幼馴染みにひどいことを言われたと聞いて、黙っていられなかっただけだ」
「よく私だってわかりましたね」

 昔と今では、幼馴染みの太一ですらわからないくらいの別人である。大学生の頃ちょろっと会った彼が、私にすぐに気づいたことに驚いた。

「あまり変わってないだろう? もちろん痩せたとは思うが、育実は昔から可愛かった。カクテルを飲んでいるときの顔は、オレンジジュースを飲んでた頃となんら変わってなかったしな」
「変わってないと言われるのも複雑です」
「大人になって綺麗になった。何度もそう言ってるだろう。信じろよ」
「……信じてますよ」
「本当に?」

 顔を覗き込まれると、頬に熱が集まってくる。だってこんなの信じざるを得ないではないか。好意でもなければわざわざ私に近づいてくる理由がない。

「父から聞いていたにしても、それだけで好きになったって言うんですか?」
「昔は恩師のお嬢さんに過ぎなかったさ。それが変わったのは、あのバーでだな」
「あのとき?」
「育実の新しい恋の相手になりたかった。ほかの男に見つけられてしまう前に、タイチくんが育実の良さに気づく前に奪ってしまえたらと思った」

 優一さんの言葉に胸を鷲掴みにされた気がした。
 マスターに言われた言葉をこんなときに思い出すなんて。

 ──恋人でも作ったら? 過去の恋を忘れるなら、新しい恋以外ないと思うよ。

 私はきっと、あの夜には落ちていたのかもしれない。昔の私を可愛いと言ってくれた唯一の人。そして、私に自信をくれたこの人に。

「そういうことばっかり言うから……っ」
「言うから?」

 私は両手で顔を覆い隠し、指の隙間から彼の睨めつけた。自信ありげな彼の顔に苛立つも、いつまでも見ていたくなってしまうのだから、すでにかなりの重症である。

「タイチくんのことを忘れるくらい、俺に夢中になった?」
「……なりました」
「ははっ」
「なんで笑うんですか……っ」
「悔しそうに言うからだろ」

 優一さんは私を見て、口の端を上げて笑った。その顔がやっぱりムカつくくらいかっこよくて、私は心の中だけで身悶える。

「今日は、俺の家でデートをしようか?」

 囁くように言われ、先日の熱を思い出してしまったかのように身体が火照った。

「どうする、育実?」

 先週と同じ言葉で問われて、私はあのときと同じように彼の手を取ったのだった。


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