エリート弁護士の執着愛
 第二章


 翌朝、ぐっすりと眠りこけていた私は、身体を揺すられて目を覚ました。

「ん……」
「おはよう、そろそろ十時過ぎだ。朝食でも摂らないか?」

 いつもとは違う匂いと空気を感じて目を開けると、眼前にあまりに美しい顔が飛び込んでくる。一気に昨夜のあれこれが蘇り、顔が沸騰するかのように熱くなった。

「あ……お、おはよう、ございます。久能さん」
「昨日は名前で呼んでくれてだだろう。あぁ……恥ずかしいのか」

 優一さんはベッドに腕を突き、私の顔を覗き込んできた。逆立ちをしているわけでもないのに、頭に血が上ったかのようにクラクラする。
 寝起きの私とは違い、彼は昨夜と同じようにきっちりとワイシャツを着込みネクタイを締めていた。もしかしたら仕事なのかもしれない。

(十時って言ったよね。私が起きるのを待っててくれたのかも)

「ごめんなさい。私、帰りますね」
「こらこら、どうしてそうなる。きちんと説明を」

 慌てて身体を起こしてベッドから下りようとすると、彼の腕が腰に回された。
 まるで逃がさないと言われているみたいで、そんなはずもないのに、本当に優一さんの恋人になったような気がしてくる。

「だって、仕事では?」
「いや、仕事は休みだ。育実とデートをしようと思って着替えていただけだ」
「デート!?」
「恋人ならデートくらいするだろう。身体が辛ければルームサービスでも取って、部屋でゆっくり過ごすか?」
「あの……恋人って本気だったんですか?」
「俺は、冗談で恋人になろうとは言わない」

 呆れたような目を向けられるが、冗談じゃなかったらなぜなのか、まったくわからない。昨夜会ったばかりなのに、まさか私に一目惚れしたとでも言うのだろうか。

「だって、昨日会ったばかりなのに」
「一目惚れしたって言ったら信じるか?」

 私が信じられないのをわかっていて言っているのだろう。素直に首を横に振ると、彼の形のいい眉がひょいと上がって、髪を撫でられた。

「あの、そういえば私の服は?」
「あぁ、昨日着ていた服はクリーニングに出した。夕方頃には届くだろう。それまではこれを」
「え……あの、これ」

 私が愛用しているブランド店の紙袋をベッドに置かれ、言葉を失ったまま彼を見上げる。
 まさか私が寝ている間に用意してくれたのだろうか。そんな疑問が表情から伝わったのだろう。口元を緩ませた優一さんが、どうぞとでも言うように手のひらを指しだした。

「昨日と同じ服でデートには行けないだろう。育実が好きそうな服を選んだが、どうだ? 開けてみて」
「あ、はい」

 紙袋に入っていたのは、胸の下で切り返しのあるAラインワンピースと下着にストッキングだ。ワンピースは落ち着いたクリーム色で、切り返し部分はダークブラウンのラインが入っている。店頭で見かけたら絶対に買っているくらい私好みのデザインだ。
 昨日で会ったばかりの彼が、私が好きなブランドを知っているはずがない。偶然だとは思うが、驚きのあまり礼を言うのも忘れていた。

「……あの、ありがとうございます」
「身体が辛くないなら着替えて。食事に行こう」
「はい」

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