御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
「私たち、今は付き合ってないよね? “二股”って言い方はおかしいと思う」

 そもそもそこが問題なのだ。
 私はもう諒太の恋人ではないし、はっきりと復縁もしていない。
 だから怒って私に詰め寄る立場ではないのだと、もう少し自覚してもらいたい。

 小さく溜め息を吐いて諒太のほうを見ると、小走りでこちらへ近寄ってくる小柄な女性を視界の端に捉えた。
 誰なのかは知らないが、どうやら諒太とは関係があるらしい。

「お待たせ。広くてトイレから出たら迷いそうになっちゃった」

 フフッと笑いかけながら、女性が諒太の腕を取って絡ませる。
 諒太はあわててそれをそっと解いたけれど、取り繕ってももう遅い。
 よく考えたらなにも用事がないのに、こんな場所にひとりで来るわけがない。
 今夜はこの女性とデートをしていたのだ。……私が映画を断ったから。

「奈瑠さん、行こう」

 隣でそっと見守ってくれていた佑利さんが私の手を取って歩き出す。

「待てよ! まだ話が終わってない」

 無視されたと思ったのか諒太が再び激高した。
 顔をしかめた佑利さんが手を繋いだまま仕方なく歩みを止める。

「自分のことは棚に上げてよく言うよな。ほら、“彼女”が待ってるぞ?」
「ち、違う! これは……」
「ホテルにいるのに言い訳する気かってセリフ、そのまま返す。まったく、往生際が悪すぎる」

 氷のように冷たく鋭い視線が諒太に突き刺さった。
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