御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
『奈瑠が見たいって言ってた映画、まだ上映してる映画館を見つけたから誘ってみたんだけどな』
「ごめん。取引先の社長夫婦との会食があって、父が私にも参加しろって言ってるの」

 私の父は電子部品メーカーの会社を営んでいて、私も大学を卒業したあと、そこで事務の仕事に就いて丸二年になる。
 親睦を深めるために、付き合いのある会社同士で会食をしたりゴルフに行くという古い習慣が未だに残っていて、今回は社長の娘として私も呼ばれてしまったのだ。

 仕事の話が出ることも多いのでなにかと堅苦しいから、極力遠慮したいところなのに。
 良い関係を築くための環境作りであり、会社が生き残っていくためだと父から言われたら行かざるをえなくなった。

『わかった。先約があるなら仕方ないよ。また今度デートしよう』

 ちっとも怒ってなんかいないとばかりに諒太が明るい口調で言った。
 昔は小さなことでもヘソを曲げていたのに、今は元サヤに戻りたいからかずいぶんとやさしい。
 保留にしたものの、諒太のことはどうしたものかと悩みの種になっている。電話を切ったあと、はぁっと自然に溜め息が漏れた。
 
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