御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
「こちらで勤務されているんですか?」
「いえ、まだ大学生なので……」

 当時の彼女は二十一歳で大学四年生だった。
 この日はパート勤務の事務の女性が急遽早退したために、手伝いに来ていたらしい。

 もう少し彼女と話してみたい。
 そんな衝動にかられたが引き留めるのもおかしいので、あきらめて九重社長と仕事の話を詰めた。
 商談を終えて会議室から出ようとすると、「あの!」と俺を呼び止めて彼女が部屋の中に入ってくる。

「余計なお世話かもしれないですけど……これ、よかったらどうぞ」

 ずいっと差し出された物がなにかわからないまま、俺はとっさに受け取ってしまう。
 渡された小さなペーパーバッグの中身を覗いてみると、薄い形状の物が入っていた。

「これは?」
「使い捨てのホットアイマスクです。目が充血しているので……疲れていらっしゃるのかと……」

 失礼な言い方にならないように必死で言葉を選んでいる彼女がかわいらしくて仕方なかった。
 どうやら俺は気づかないうちに心配されていたらしい。

「私も目を酷使するとよく充血しちゃうから、そういうのを使ってるんです。じんわり温かくて気持ちいいですよ?」
「俺の場合、酷使というよりは寝不足が原因なんだけどね」
「そうだったんですか。すみません。私、勘違いをして……」
「いや。ありがとう。寝る前に試してみるよ」

 彼女の細やかな気遣いが素直にうれしかった。
 俺とは初対面なのだから、見て見ぬふりはいくらでもできただろうに。
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