御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
「お仕事が忙しくて眠る時間が少ないんですか?」
「ただ眠れないだけ。海外を行き来するから時差のせいもあるけど、最近は特に。ベッドで横になっても目が冴えたままでね」

 困ったものだと冗談めかして肩をすくませると、彼女がさらに心配そうに大きな瞳で俺を見つめる。

「もしかしてお風呂は、シャワーだけですか?」
「ああ、うん」
「たまには湯船にゆっくり浸かってみてください。あとは寝る前のストレッチとか。そうすると布団に入るころには副交感神経が優位になって眠りやすくなるかと……」

 とうとうと喋る彼女に圧倒された俺は、すぐに言葉を返せずにポカンとしてしまう。
 隣にいた九重社長もあきれ顔だ。
 すると彼女も俺たちの様子に気づいたのか、突然ガバッと頭を下げた。

「すみません! 私、本当に余計なことばかり言って」
「謝らなくていいよ。奈瑠さんは知識が豊富なんだね。すごい」

 自律神経には身体を活動させる交感神経と休養させる副交感神経がある。
 奈瑠さんが口にしたのは、これらの作用のことだ。
 交感神経は主に緊張やストレスを感じたときにも活発化するので、俺の場合は仕事で神経をすり減らしているのが原因だろう。要するに自律神経が乱れている状態。

 放っておいたらいずれ身体が悲鳴を上げるのは、頭の片隅でわかっていたのだけれど、仕事優先で後回しにしていた。
 俺は身体が強いからアクセルが少々暴走していてもなんとかなると、甘く見ていたのもある。
 それを初対面の彼女に見抜かれた気がして、大人の男として恥ずかしくなった。
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