御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
「看護師をしている友達から話を聞いただけで、たいした知識なんてないんです」
「そんなことないよ。ありがとう」

 きちんと目を見て礼を言うと、彼女は照れながらにっこりと笑ってくれた。

 どんな男に対してもこんなふうにやさしいのかと考えたら、胸の中がなぜかモヤモヤとした。
 綺麗な顔で誰にでも微笑まないでほしい。その笑顔は俺にだけ向けばいいのにと、独占欲のような感情が自然と芽生えた。

 一ヶ月後に再び九重電子を訪れたときもオフィスの中に奈瑠さんの姿を見つけて、自然と心が躍った。
 注意していなければずっと目で追いそうになる。
 お決まりのあいさつを済ませて会議室の椅子に腰を下ろし、九重社長と最初にたわいない会話をしていると、お茶を出しに来てくれたのはこの日も彼女だった。
「ありがとう」と声をかける俺に微笑んでくれた笑顔がやはり美しい。

「あの……またお節介だったらすみません。これ……」

 お茶と共にそっとテーブルに置かれたのは茶色の小さな瓶。

「睡眠サポートドリンク?」
「はい。ドリンクならそれが一番いいって友達に聞いたので。よかったらお持ち帰りください」

 あのあとも俺の睡眠事情をずっと気にかけてくれていたのだろうか。
 だとしたら、なんてやさしい子なんだ。

「少しでもぐっすり眠れるといいですね」

 迷惑になっていないかと俺の表情を伺いつつ笑みを浮かべる彼女に、俺はこのとき完全に落ちた。
 初めて会ったときにもすでに惹かれていたが、こんなにも胸が締めつけられるほど一気に気持ちが傾くなんて。正直、自分でも驚いている。

 思い切ってデートに誘ってみようか。
 いや、父親である九重社長の前でそれはできない。連絡先だけでも交換したいけれど、それもこの場ではむずかしいだろう。

< 22 / 28 >

この作品をシェア

pagetop