御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
 社長の長男である佑利さんは私より五歳年上で、今はリベルラの副社長を務めている。
 来社のたびに私にも気さくに話しかけてくれるやさしい人だ。
 彼は年齢と共に年々貫禄がついてきて、今では御曹司らしくキラキラとしたオーラを放っている。

「頼むぞ、奈瑠。くれぐれも粗相のないようにな」
「う、うん」

 突然父が至極真面目な顔をして力強くそう言った。
 会食は無難な相槌を打って愛想笑いをするに限る。そうやってやりすごせば滅多に粗相をするようなことは起きないはずだ。
 そんなに念押ししなくても私だってもう立派な社会人なのだから、そのあたりはわきまえているのに。

 親子でたわいもない会話を交わしていると、出入り口の扉が開いて天城社長たちがやってきた。
 私たちは全員椅子から腰を上げて出迎える。

「少し遅れてしまいましたかな」
「いえ、我々が早く来ただけですので」

 父と天城社長が言葉を交わすのを見守りつつ、私は内心驚かされていた。
 先方は社長夫婦ふたりだと聞いていたのに、男性がもうひとり現れたから。
 誰なのかと首をかしげる間もなくすぐにわかった。つい先ほどまで話題にのぼっていた佑利さんだ。

「奈瑠さん、来てくれてありがとう」
「とんでもございません。こちらこそいつもお世話になっております。今夜は食事の席にお招きいただき感謝申し上げます」

 天城社長にはいつも人間的な余裕を感じる。私にもていねいに声をかけてくれるし、立ち振る舞いが上品で紳士だ。
 見た目もよくいる中年男性のようにお腹が出ていなくてスタイルがいい。
 奥様とはかなり前に会ったきりだけれど、奥ゆかしく控えめな感じは変わっていないように思えた。

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