御曹司からの切望プロポーズ~妖艶で蠱惑的な瞳に迫られました~
「奈瑠、行ってきなさい。佑利くんみたいな素敵な男性に誘ってもらえて光栄じゃないか」

 父にそんなセリフを言われたら、それとなく断ることすらできなくなった。

「私、すごく運動音痴なんですけど、お邪魔でなければぜひ……」

 微妙な笑みをたたえながら返事をすると、佑利さんはパッと花が咲いたように笑った。

「よかった。でも夜景を見ながら食事するほうがいいよね。記念すべき最初のデートなんだから」
「え……」

 意味がわからなくて言葉を詰まらせる私をよそに、天城社長が「そりゃそうだ。デートは雰囲気が大事だろう」などと言って笑っている。
 ちょっと待ってほしい。
 会社同士の付き合いだとか接待うんぬんではなくて、佑利さんは私をデートに誘っていたの?

 そうしてモヤモヤとしたまま食事が進み、デザートまで食べ終えた。そろそろお開きのはずだ。
 やっと家に帰れるとホッと気が緩んだところで、正面にいる佑利さんが私をじっと見つめていることに気がついた。

「奈瑠さん、少し散歩しない?」
「……えっと、今ですか?」
「ああ。サンセリテホテルの庭園はライトアップされていて綺麗なんだよ」
「そうなんですね」

 どうしたらいいのかと迷う時間すら私にはなかった。目の前の佑利さんが先に椅子から立ち上がったから。

「あとは若い者同士で、というお決まりのやつだな。我々は先に帰ろうか」

 天城社長が冗談めかしてそう言い、私の両親も「そうですね」などと相槌を打ってワハハと笑っている。
 どうやらこの状況についていけていないのは私だけのようだ。
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