空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
不安との戦い/side那知
始まり
「…で、兄貴は今日は来てないけど、もう向こうに行ったの?」
「ううん。今日は午後から来るよ。向こうには週末に出るの。…大変だよね…」
週末にお父様へご挨拶に伺って、週明けから霧ちゃんにはその時の事をお話ししてるんだけど、相談までしていると1日では終わらなくて。
水曜日の今日も、お昼休みに話を聞いてもらっている。
「ま、兄貴は今までも海外含めてあっちこっち行ったり来たりって働き方をしてたから慣れてるだろうけどさ」
「…そっか、それもそうだね。賢太郎さんにとっては、こっちでじっとしてる仕事の方がイレギュラーなんだもんね」
「那知もデザインコンペで忙しくなるし、2人には試練の時かぁ」
「あは、そうだね。試練か……そうだね、ほんと」
「それにしても……紅羽が乗り込んできたとはねー…ほんっとアイツは…」
「あっ、でも…紅羽さんていい人だよね。真っ直ぐで」
「…何でそう思ったの?」
「え?…いや、私の体調も本当に心配してくれてたし……言われた事も、後から思うと、恋敵にただ意地悪してくるのとは違うかな、みたいな感じがしたんだよね」
「…ほんっと那知はすごいよね」
霧ちゃんが私の顔を見ながら、ほぉー…ってため息をついた。
「え?何が?」
「よくそんな短時間でアイツがわかったね」
「ん?ん?どゆこと?」
「アイツってさ、変にお嬢様気取りじゃない?それで上から目線ていうか見下してくる様な言い方でしょ?」
「あー…確かに最初はそう感じたね…うん」
「でもさ、アイツは見下してるんじゃないのよ」
「?うん…」
「何て言うのか……あぁ、単純に言えば、お節介なヤツなのよ」
「…お節介…」
お節介……お節介か……
その言葉を心で咀嚼する。
「あ…確かに…」
「わかる?」
「うん…何となくだけどね」
私がいいとこのお嬢様でないとわかってからのあの態度は、〝こいつはお金目当てで近づいた女なんじゃないか〞という、十和田家を心配してのお節介なのかもしれない。
「あれ?霧ちゃんは紅羽さんと相性が悪いんじゃなかったの?」
「悪いよー」
「でも嫌いではないんだね」
「…何で?」
「だって紅羽さんのフォローしてるし」
また霧ちゃんがまぁるくした目を私に向けた。
「…ほんっと那知って聡いね」
「や、そんなことはないけど」
「確かにさ、アイツの言動って鼻につくしイラッとするんだけど、腹黒じゃないのよ。だから、アイツの事を知りもしないで悪く言うヤツにはムカつくし、言い返してたわ」
「ふふ、そうなんだね」
「だから、那知がアイツの事をわかってくれて嬉しかったわ。…あぁ、ちょっとだけね」
「アハハ、そこは霧ちゃんらしい。…じゃあそろそろ戻ろうか。お昼休み終わっちゃう。……あれ、賢太郎さんから連絡来てた。……午後イチで霧ちゃんと社長室に来て、だって」
スマホを霧ちゃんに見せて言う。
「あー、あれじゃない?コンペの案内が来たとか」
「そうかも。……了解です、と送信…よし。じゃあ一旦オフィスに戻ろっか」
「だね」
…と、この日の相談はこれで終わってしまった。
本当に霧ちゃんに相談したかったのは〝空色の懐紙の手紙〞のことだけど…結局言えなかった。
今は…どうなんだろう…
まさか…まだ持ってたりなんてしないよね…?