空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

昼休み──

今日のランチは、オフィス街に来るキッチンカーでハンバーガーをテイクアウト。

社食だとあの話で持ちきりだろうから、霧ちゃんと逃げるように近くの公園に来た。
ここは小さな公園だけど、紅葉する木がいくつもあって、青々と茂る初夏とこの時期はお気に入りなんだ。



「はーっ!…ったくどいつもこいつも馬鹿の一つ覚えみたいにあいつらの結婚話ばっかり!仕事しろー、仕事ぉ!」

「あはは、霧ちゃん。ちょっと怖いよ?ツノが見えるもん」

「いーの。今日は那知の分身なの、悪魔の心の方の。後で林田が一人の時に特大のイヤミ爆弾落としてくるわ」

「や、霧ちゃんがそんな役回りする事ないよ」

「あたしが言ってやりたいの。…あー腹立つ。ってかあの女、やっぱ噂通りのヤバい奴だったわ」

「噂?」

「那知は知らない?あの女、狙いを定めたら彼女がいようがお構い無しにあざとく近付いて寝取るって、本社女子の一部じゃ有名でさ」

「えぇ!?今年入社したばかりだよね!?まだ半年くらいなのにもうそんな噂が…?」

「そーよ、だからこそビッチの噂が立ってるのよ。でもあの女って人事の堀田部長の娘じゃん?だから彼氏を寝取られても誰も文句つけらんなくて、どんどんビッチになっていっちゃったとさ、チャンチャン」

「そんな人なんだ…」

「林田が営業部のエースになって、将来有望株って言われ始めたから狙ったんだろうね。スペック重視らしいから」

「…私はスペックとかどうでもよかったのにな…」

「那知はそうだよね。ヤツが那知に猛アタックした時なんてエースになれるなんて思えないくらい弱っちかったし。…それを…那知が支えていたからアイツはここまで成長したのに、恩を仇で返しやがって……あんのクソ男!」

「や…今があるのは尚人の実力だと思うよ」

「那知、優しすぎ!仮の仮の仮に実力だとしてもよ?それを引き出せたってのが那知のチカラだっての!」

「そんなこと…」

「あぁ。…てことはさぁ、あの女とデキ婚したらどうなると思う?」

「どうなるって?」

「あの女は絶対ヤツの力を下げるわね。営業成績だってガタ落ちよ、きっと。うっふふふ、あの2人が堕ちて行くザマを近くで見るのが楽しみねぇ。林田もあんな女を選んで那知と別れたことを後悔するといいわ!フフ…フフフッ…アーッハッハッハ」

最後に高笑いで締める霧ちゃんがおっかしくって、涙が出るほどケラケラ笑ってたら、さっきまで胸につっかえてたものがするんと流れていくのがわかった。

「あははは。霧ちゃん、ありがとう。何だかスッキリしたぁ」

「それは良かったわ。で、旅行はどうするの?」

「んー…まだ迷ってる。ほんとに泊まってみたいお宿だから。…でも1人で行くのもさ……ほら、予約したのって離れのお部屋でしょ?だから、このベストシーズンに1人で泊まるのもお宿に悪い気がしてね…」

「まぁ宿は料金払えば嫌だなんて言わないわよ。那知みたいに楽しみにして来てくれる客には特にね。あー!あたしが一緒に泊まりたかったー!く~っ温泉いーなー!『華舞雪舞(はなまいゆきまい)』だもんな~」

「うん!お食事もすごく楽しみにしてたからすっごく行きたいんだけどね…どうしようかな…」

「華舞はうちの食器も使ってくれてるもんね。自分がデザインした食器が使われてるのを見れたら感慨深いわよね。あー、週末に龍綺の実家の用事がなければ一緒に行ったのになー」

「そういえば龍綺さん、この週末に帰国されるんだよね。ふふ、そっちのがいいじゃない、やっと旦那さんに会えるんだもん。…じゃあ霧ちゃんとの華舞はいつかの楽しみに取っとくね」

「そうね、いつか絶対に一緒に行こ!…あ……そうだ!」

と、霧ちゃんが何か思い立った様に言う。

「那知。逆に1人なら旅先で新たないい出逢いがあるかも!」

「ふふ、それはなかなか難しいって」

「いやいや。よくあるじゃない、傷心旅行先で出会ったいい男とワンナイト。のつもりが溺愛!からのゴールイン!とかさ」

「あははは!霧ちゃん、それは漫画や小説でよくあるだけで、現実にはまずないよ?」

「いーや、ある!あるはず!こーんなに可愛くてイイ女の那知にはあって然るべきよ!」

「あはは、そこまでお褒め頂きありがとう」

「でさ、その相手ってのがものすんごいハイスペックのイケメンなのよ」

「まだ話の続きがあったんだ。ふふふ」

「そうよ、よーく聞いてよ?……それでね、実はその人は有名企業の御曹司で、那知はその人と電撃的に結婚して、一生めっっっさ愛されるの!…ね、いーでしょう?んふふ」

「あははは!それいいね!本当にあったら最高だね!」

「でしょ?だからさ、行ってみなよ、一人旅」

「あはは、そうだね。まぁさっきの霧ちゃんの話は夢物語として思っとくけど」

「なんでよ!あたしは勝手に期待しとくからね。ハイスペイケメンとのいい出逢いがあるように祈っとく!そうね…もし出逢いがなかったらうちの兄貴を紹介したいなー。龍綺と一緒に帰国するって言ってたし。女嫌いで独り身だし、仕事人間で普段は仏頂面であまり愛想はないけど、あたしから見れば性格はまぁ悪くないと思うし、外見も一応イケメンの部類に入るからさ」

「あはは、そうなんだ。ありがとう霧ちゃん。でも確か…前に、お兄さんには忘れられない女性がいるとか言ってなかったっけ?その人のことはもういいの?」

「あー、そんなこともあったね。でもそれ聞いたのももう何年も前の事だし、さすがにもう気持ちの整理はついてんじゃないかなぁ、いい歳なんだし」

「んー…そもそも女嫌いなら私も無理だと思うけど…」

「あーなんかね、近付いてくる女達のあざとさに辟易してるらしいよ」

「そうなんだ、やっぱりモテるんだね、お兄さん。…でも、パッとしない私じゃそんな素敵なお兄さんのお眼鏡にはかなわないと思うなぁ、あはは。…じゃあそろそろ仕事に戻ろうか」

「え、もうこんな時間か。んじゃ午後も頑張りますかぁ!」

ランチではお腹が痛くなるほど笑って、気付いたら午前中のストレスなんてほとんど無くなってた。

ありがとう、霧ちゃん。

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