空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
俺達に気付いたアサトの社長…つまり紅羽の父親が、ニヤニヤと薄汚い笑みを浮かべながら近付いてきた。
「やあ、賢太郎くん。いよいよワシの息子になる時が来たねえ」
そんなことを言いながら俺の隣にいる那知を舐めるように見るから、俺は那知の腰に腕を回し、俺の胸に顔を埋めるように抱いた。
「フン……賢太郎くんを娘から横取りしたというからどれだけべっぴんなお嬢さんかと思いきや…なんだ、どこにでもいそうな小娘じゃないか。これならうちの紅羽の方が断然美人だし、賢太郎くんにお似合いだぞ。それに夜の方だってなぁ、美人な方が楽しめていいだろう?…まあ賢太郎くんと結婚するのは紅羽だと決まった様なものだがな」
…このオヤジの言葉と小汚いドヤ顔に苛立ちを抑えきれず、クソ…と呟くと「賢太郎さん」と優しい声がした。
腕の中にいる那知を見ると、優しくニコ、と笑い、ふるふるとゆっくり首を横に振っている。
「那知……わかったよ」
俺もつられてフッと笑い、那知の頭を撫でた。
一番腹を立てるはずの那知にそう言われてはな…
それに、ここで事を荒立てるのは得策ではない。
那知のおかげで少し冷静になれた頃、紅羽がス…と社長の前に出た。
「お父様。那知さんは聡明で素敵な女性ですのよ。それを…人様のお嬢様に小娘だの何だのと……その様な言動はアサトの品位が落ちましてよ。それに今日はコンペですの。賢太郎の結婚相手を決める勝負ではないと申し上げたはずですわ」
「なんだ紅羽。お前だって賢太郎くんと結婚したいんだろう?もう決着がついたんだ、いいじゃないか」
「お父様…何ですの?さっきからアサトが勝ったような言い方ばかり……まだ誰もどちらの作品も見ていませんのよ?失礼ではありませんか」
「そんなもの、モノがなければ勝ったようなものだろう?」
「モノがなければ?……って、どういう事ですの?…那知さん、賢太郎…一体何がどうなってますの!?」
……なるほど。
この焦りようからすると、紅羽は本当に知らないみたいだな。
それならば、と、これまでの経緯を説明しようとしたその時、後方から堀田の「だってぇ」という声が聞こえてきた。
「だってぇ、お皿割れちゃったしぃ?だったらコンパにならないじゃん?この女の負け確定っしょ?」
「えっ…割れたって……っていうか、何でこの小娘がいるのよ!たかだかそこらの部長の娘風情がこんな所に来るんじゃないわよ!」
……さっきは那知が小娘扱いされて怒ったのに、堀田には小娘扱いするんだな……ってちょっと笑いが込み上げてくると、俺の胸で那知が「ぶふっ」て吹いたもんだから、俺もつい「ククッ」て笑っちまった。
「…賢太郎、何ですの?何がおかしいんですの?」
「いや、すまん。那知が笑うもんだから…」
「えっ、ちょ…っ賢太郎さん、私のせい?私だって賢太郎さんが笑いを堪えて震えてるのに気付いて吹いちゃったんだから…」
「ふ……あっははは!そっか、ごめんな、那知。俺が笑わせたのか、ははは」
「あはは。ううん、ごめんね。私も笑いそうだった時に気付いちゃって…ふふ」
そんな那知の可愛い笑顔に癒されたところで、紅羽をはじめとするアサトの面々に、岸の身に起こった事をそのまま伝えた。
「…という事があり、岸くんが持ってきた皿が割れたのは本当だ」
「…そうでしたのね……事情はわかりましたわ。それで…お父様はそれを知っていたと」
「あ?あ…あぁ……いや…」
「…煮え切らない返事ですわね」
「でもぉ、お皿がダメになっちゃったんだからぁ、もう負けじゃん?」
「小娘はお黙りなさい!」
「バカ女は黙ってな!」
この紅羽とキリの声の勢いに、堀田はたじろぎ、押し黙った。