空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
開始時間になり「それではこれからコンペを開催いたします」と、姉貴がホールにやってきた。
「かなめさん!TOKIWAさんのお皿が…」
と駆け寄る紅羽に、姉貴はこっそりウインクを返していた。
「それでは両社の作品をお持ちいたします」
という言葉の後、パントリーと直結したドアが開き、二つの箱が乗ったテーブルを数人のスタッフがゴロゴロと押して出てくると、広間の中央にある長テーブルにピタリと付けられた。
その二つの箱とは、1つはアサトの社名ロゴの入った化粧箱。
そしてもう1つは、TOKIWAの社名ロゴ入りの段ボール箱だ。
「では、両社の代表者は開封し、作品をテーブルに置いて下さい」
姉貴の合図で那知と紅羽がそれぞれ自分の箱の前に立ち、箱に手を掛けた。
アサトの箱は外箱の梱包がない分すぐに開けられたが、TOKIWAの段ボール箱は厳重に梱包されていて、それを那知は苦戦しながらも丁寧に解いていた。
そんな那知をニヤニヤと卑しい顔で見る安里社長と堀田だったが、那知が箱から作品の皿を取り出すと、みるみる驚きの顔に変わった。
「な…何で!?割れたはずじゃん!」
「リナさん、これは一体どういうことだ!?」
「しっ…知らない!だってアレは階段で突き落とした時に割れたはずだもん!」
「だが現にここにあるじゃないか!」
「ウソだ!絶対に割れてたもん!」
2人が言い合う中、「割れたのはコレだよ、リナちゃん」と岸がパントリーから鞄を持ってきた。
そして中から1つの箱を取り出し上下左右に振ると、ガッチャガッチャと音がした。
「えっ!?何で!?……じゃ、じゃあこっちの箱って…」
「これは以前、私が山形工場からこちらにいる賢太郎さんへ送った、コンペの作品です」
那知が毅然と答える。
実はコンペに出す正式な作品は2セット作成してあり、1つは俺がこっちのマンションで受け取って、今日まで開封せずに保管していた。
そして今朝、念には念を入れ、誰にも見られない早朝に来て、姉貴に渡しておいたんだ。
もう1つは予備として、那知が東京の俺のマンションで引っ越しの荷物と一緒に受け取って保管している。
…そんな訳で、実は俺はまだ作品を見ていない。
キリと龍綺は写真で見たらしいが、俺は今日の楽しみにと、あえて見ないでおいたんだ。
だから今すげぇワクワクしてんの。
「は……ハァ!?えっ、だってこの前、岸さんに持ってってもらうって言ってたじゃん!」
「岸、言ってやりな」
キリが岸に向かって顎をしゃくった。
「ハイ。…リナちゃん、俺が持ってきたのは俺の作品なんだよ。しかもコンペ作品じゃなくて、華舞雪舞さんで使ってもらうお皿の見本品ね。せっかく目の前で女将に直接見て触ってもらえる機会だったのにこれだよ……梱包が足りなかったな、トホホ」
岸は箱を振り、またガチャガチャ鳴らす。
「うそぉ!あっ!わざと嘘を言ってリナを騙したんだ!」
「あのさぁ、あたしらがどこで何を言おうと何をしようとあんたには関係ないでしょ。何より、嘘は1つも言ってないわよ。岸に、ちょうどいい機会だから自分で持っていけば?って話したのを、あんたが勝手にコンペ作品だと勘違いしただけ」
「く…くっそぉ……」
堀田が般若の様な顔つきになり、ヤバいと思った俺はすかさず那知の元へ駆け付けた。
「そんなものぶっ壊してやる!」
そう叫ぶ堀田がこっちへ来るかと覚悟したが…堀田はその場から動かなかった。
いや、正しくは、後ろから男に腕を掴まれて動けなかった、のだが。
「誰よ!いいから離してよ!あんなの…皿もあの女もぶっ壊すんだから!」
そう怒鳴る堀田の前に男が姿を見せると、広間にパチン!という音が響いた。
堀田の頬に平手が飛んだのだ。
「尚人さん!?……な…何でいるの!?」
「最近、君がコソコソしているから今日も後をつけてきたんだよ」
…そう。
堀田を掴み、そして堀田に手を上げたのは、夫である林田だった。