空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
予想外の来客
「リナ、君はここには用はないはずだ」
「あるの!リナはあの皿を壊さないとなんだから!」
「…それがお父さんからの命令だからか?」
「っ!」
「というか、お父さんが、そこにいるアサトの社長さんからそう指示された。そうなんだろ?」
「な…っ何だお前は!」
林田はアサト社長の言葉には反応を見せず、ただただ堀田を見据えていた。
「……っ」
堀田は林田から目を逸らすと…ぼろぼろと涙を溢し始めた。
「だってアサトが勝てばパパはもっと偉くなれるんだもん!もっとお金持ちになれるんだもん!それに……リナ、この女が大っ嫌いなの!こいつを潰したいの!」
「ハァ…何でリナはそこまで東雲さんに執着するんだよ…」
疲れた顔のその林田の問いは、俺も知りたい疑問だった。
「だって……だって、この女はリナの人生に邪魔なの!みんなリナよりこいつがいいって言うんだから!リナの方が若いし可愛いのに!」
「みんなって誰だよ」
「経理の吉川主任も!総務の三島さんも!企画の五十嵐くんも!…他にもたくさんいるの!稼げるいい男はみんな結婚するならこの女がいいって言うんだから!ムカつく!」
…確かに、吉川も三島も五十嵐もタイプは違えど仕事もできるいい男だが…そうだったのか。
やはり那知は男どもに狙われていたんだな。
ていうか、理由は嫉妬か。
それなら夫である林田がフォローするだろう。
と思っていたのだが…
「リナ、そんなの当たり前だろ?那知は本当にいい女なんだから」
と、たぶん誰もが予想していなかった言葉を、妻である堀田に投げつけた。
「は…?」
「そうだろう?那知は仕事もできて、何より性格も容姿もいい。そりゃあ僕でなくても憧れるよ。いい男なら尚更自分の女にしたいと思うはずだしな」
「……尚人さん……?」
「でも僕は、弱い僕は…そんな彼女を裏切ったんだ……那知の優しさも気持ちも……本当の弱いままの自分も見えていなかった……でも気付いたよ…僕はまだこんなにも那知を愛しているんだって…」
「尚人さん……何を言ってるの?リナ、奥さんだよ?」
「リナ……君だってそうじゃないか。林田尚人って人間でなくて、これから稼げそうな、それでいて父親の言うことを黙って聞く男なら誰でもよかったんだろう?それに…那知と僕が付き合ってる事は会社には内緒にしていたけど、リナは知ってたんだろ?それで那知から僕を奪うって理由もあったみたいだけどね」
「…何でそれ…」
「リナの同期の子と、最近リナが言い寄っている織田くんに聞いたんだよ。結婚したら僕の束縛が激しくなってモラハラを受けてる、だっけ」
「え…何で…」
「織田くんは歳上だけど僕と同期だよ。課も違うし皆は知らないけど、実は仲はいいんだ。だから、織田くんがリナが言い寄って来ている事を教えてくれたんだよ」
「な……」
「同情をかって、彼が振り向いたら僕のせいにして別れるつもりだったんだろ?…あぁ、いいよ。僕も君とはやっていけないと思ってたから」
「えっ、何で…ちょっ…ちょっと待って……あっ!赤ちゃん!子どもはどうするの!?」
「それも嘘なんだろ?そのうち流産したとか言うつもりだったらしいな」
「なっ…」
「だから君の同期の子に聞いたって言っただろ」
「あ…あいつら…」
「リナ、君は父親の威光を笠に着てやりたい放題なんだな。あれだけ同期に恨まれるのも珍しいと思うよ。それに、まぁ聞かなくても子どもは嘘だと薄々わかってはいたけどね」
「えっ…」
「僕は犯罪者親子の家族ではいたくないからね、君とは離婚するよ」
「なっ…なに、犯罪者って…」
「…近い内に十和田社長から聞かされると思うよ。…それに君だって犯罪者だろ?今朝、岸くんを突き飛ばしたじゃないか。あれは偶然ぶつかったんじゃない、どう見ても故意だった。… 岸くんが被害届を出すかは分からないが、僕は警察に言おうかと思ってるよ、証拠の動画と併せてね」
「えっ……ちょっと待って……尚人さん……え?何?……リナ…捕まるの?」
さすがの堀田もここまで言われるとは思っていなかったらしく、白い顔で呆然と立ち尽くしている。