空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
──それからしばらくして姉貴から準備が整ったと連絡が入り、2人で向日葵の間に行くと、既に両社の大皿に料理が乗せられた状態でテーブルに配膳されていた。

ここにはもうアサトの社長や秘書、役員の面々はおらず、アサト側で残ったのは紅羽だけだった。



さっきはよく見ていなかった紅羽の作品を見ると、那知の作品と雰囲気が似ている事に気付いた。

「那知のとデザイン自体は違うけど、何て言うか違和感がないな」

「そうだよね!私もさっき見て思ったの。紅羽さんのデザインは特に大皿がすごく素敵に見えるよね」


「でも取り皿とボウルは那知さんの方がとても持ちやすいし、カラーが違うから〝my dish!〞感がありますわよね、フフ」

気付けばすぐそばに紅羽が来ていて、素直に那知の作品を褒めた。


「あっ紅羽さん!先ほどはありがとうございました。お陰さまで体調も回復しました」

「それはお勧めした甲斐がありましたわ」


するとそこで、岸が「あのー、すいません」と挙手をしながら言った。

「ん?岸くん、どうした?」

「十和田社長、僕はTOKIWAの人間ですが、TOKIWAの人間らしからぬ事を言ってもいいでしょうか」

「あぁ、じゃあ改めて紹介しようか。…良美さん、姉貴、紅羽。岸くんは那知とキリと同じTOKIWAのデザイナーで、センスには定評があるんだ。彼の意見を貰いたいんだけど、いいかな?」

「えぇ、もちろんよ」

「じゃあ岸くんの意見を聞こうか」

「ありがとうございます。……あの、コンペってのは分かってるんすけど、両方を使うってのはダメなんすかね?」

そう言うと、那知も加わった。

「あっ!岸くん、もしかして大皿はアサトさん、小皿はTOKIWAって思ってない?」

「おう、その通り!アサトさんの大皿のこういうデザインて、まさにこんな大きめの料理をどーん!って置くとすごい映えるんすよね。んで、シノの小皿はさっき紅羽さんが言った様に、色で自分の皿って分かりやすいから、バーベキューとかした時なんて特に便利なんだよな。…で、あえて大皿と小皿のデザインを違わせて、これらをひっくるめて〝1つのデザイン〞とするのもアリかと思ったんすよね。さすがシノ!俺の言いたい事わかってんなー!さすが同期!長い付き合いは伊達じゃねぇな!」


む。


「や、私はそこまで深く考えてなかったけどね。賢太郎さんは社長としてどう思う?」

「もちろん社長としてはTOKIWAを使って貰いたいとは思うが、那知が言うように、大事なのはお客の事を第一に考えるスタッフの気持ちだから、姉貴達の判断に任せるよ。龍綺、それでいいか?」

「モチロン!」

「紅羽もそれでいいか?」

「えぇ、よろしくてよ。どれか1つでも使って頂けるのなら私も嬉しいですわ」

「じゃあ姉貴、両社の皿と見積りを見て検討してくれるかな」

「わかったわ。結果はまたお知らせするわね」

「あぁ。では今日のところはこれで終了だな。みんなお疲れ様」

「あざっした!僕も来れて良かったっす!」


「じゃあ那知、少し外に出てくるか」
「ん、そうだね」

「キリと龍綺も泊まってくだろ?」
「もち、キリたんと泊まってくよ。ねっキリたん、いつもみたいにリュウたんって甘えていーからねっ、たくさんイチャイチャしよーねっ」
「龍綺っ、そっそういうこと人前で言わないでってば」


「岸はどうする?今日まだ部屋は空いてるみたいだが」
「えっ!そうなんすか?じゃあ泊まってこっかな!いいとこだし、観光もしたいし!そうと決まればフロント行ってきます!…じゃシノ、会えなかった分、社長にたっぷりかわいがってもらえよ~」

と岸は颯爽と広間を出ていった。

「岸くんてばもう…」
「ハハ、岸はちゃんと分かってるいいヤツだな。じゃあ行こうか」

と那知の肩を抱いたところで…

「あっ…待って!賢太郎…」

と、紅羽に声を掛けられた。


「…何だ?」

「あの…少し聞きたいことがあるのだけど……父と…会社の事で」


…ん?
さっきの件なら紅羽は知らないはずだが…
父親から何か聞いたのか?


「那知、すまないが仕事に関わる話で少し紅羽と話をしていくな。…先にロビーで待っててくれるか?」

「ん、わかった」

「那知さん…せっかくのお時間をごめんなさい…」

「いいえ、お仕事ですから。じゃあ賢太郎さん、先に行ってるね」

那知は、素直に謝る紅羽に優しく微笑むと、キリ達と一緒にこの場を離れた。

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