空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

会社を出る前にパウダールームで化粧直しをしていると、そこへ姿を表したのは…堀田リナさん。

「あ、東雲さん、お疲れ様でぇす」

「お疲れ様です」

「これからお帰りですかぁ?」

「はい」

簡単に返すと、鏡に映る私に向かってニヤニヤ顔で聞いてきた。

「ねぇねぇ、明日は一人で行くの?」


…知ってたんだ。
ていうか、尚人もそんな事まで話すとか…何を考えているんだろう。

でも霧ちゃんのお陰でだいぶスッキリしたから、私の心には余裕があった。

「ふふ、どうでしょうね」
と笑顔で返す。


「ねぇねぇ、リナのこと恨んでる?」

恨む…?「いえ」

「ほんとぉ?悔しいなら悔しいって言えばぁ?」

「いえ、ほんとに何とも」

「それ、負け惜しみってゆーの。じゃあ憐れな負け犬さんに教えたげる。あのね、リナ、尚人さんの出張先のアパートに毎週行ってたんだぁ」

「毎週…ですか?」

「そぉだよ」

「あんなに遠くへ?」

「だってパパが出張に行ったことにしてたから、ぶっちゃけタダだし」


あらら。…それ、誰にも言うなと、お父様に言われなかったのかしら。


「最初は尚人さん、彼女がいるからって遠慮してたけどぉ、毎週行ってたら喜んでくれて、リナのこと、健気だし、若くて可愛くって、守ってあげたくなる、って言ってくれたんだぁ」

「へぇ」

「それでぇ、赤ちゃんができたって尚人さんにゆったら『結婚しよう』ってゆってくれたのー」

「そうでしたか」

…何となくわかった。
尚人はさみしがり屋の人だからな…


「…てゆーかさー、仕事ができるんだか何か知らんけど、アラサーのくせして男の扱い方も知らないとか、アンタ終わってんね。カラダ使えば男なんて簡単だよ?あーそっか、もうオンナ終わってるアラサーはカラダすら使えないかー、ごめーん」

「………」

…普段から〝可愛さ〞を売りにしているリナさんとは思えない言い方に呆気にとられたけど、お昼の霧ちゃんのビッチ発言を思い出して(あれってホントだったんだ!)と、ここで納得。


「あ、ご懐妊なんですよね、おめでとうございます。お体、大事にして下さいね」

「でもぉ、東雲さん的には結婚も妊娠も最後のチャンスだったじゃないですかぁ。なのに婚約直前で略奪しちゃったみたいでぇ、いちよ、ごめんなさい的に思ってるんですよぉ?」

…いちよ?…一応、のことかな…?
ていうか全然〝ごめんなさい〞感が見えないけどね。


「いえ、全然いいですよ、ふふ」

…だって簡単に裏切る様な男なんて、いらないもん。
自分の意思も貫けない弱い男なんて、いらないもん。
あぁ、『熨斗つけて差し上げます』ってこんな気持ちなんだなぁ。

ていうか…
結婚する前に、こんな男だったんだと気付けて良かったんじゃない…?
そっか、そうだよね…そうだよ!
戸籍が汚れる前で良かったんだよ!

そんな事を考えながら、最後に口紅を塗り直した。


さて。メイクも直したし、そろそろ買い物に行こう。

「お先に失礼します」
と言ってパウダールームを離れると、リナさんがすぐ後について出てきた。

そして私を追い越して廊下に出ると「待たせてごめんなさぁい」と言うので、何気なく見ると尚人がいた。


「お疲れ様です」

「あ…お、お疲れ様…」

「リナ達、これから結婚届出してぇ、新婚旅行なんですよぉ。ねっ、尚人さん」

「あっ、あぁ…」


私は髪を耳にかけながら、さりげなくピアスを尚人に見せた。
これは〝あなたとはもう私的に関わりません〞という私からの意思表示。

「そうですか。お互い充実した週末にしましょう。では失礼します」

にこりと笑顔を2人に向けると、足早にビルを出た。
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