空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
…あぁ、そうか。
この懐かしい感覚は妹だ。
昔…幼いキリをよくこうして慰めていた記憶が甦ってきた。
俺がこっちを離れたのは高校に上がる時だから……キリと紅羽がまだ小学生の頃だ。
幼馴染みとはいえ、4歳も離れていると小学生の時ですら一緒に遊ぶことは少なかったが、紅羽は何かにつけ俺を頼ってきた。
これだけ年上だと、俺も何とかしてやらなきゃと思って、困っている時は手を貸してきた。
だからなのか、大人になっても紅羽の事は友達という関係性も含め、一人の女性として意識したことはない。
というか、そんなことすら考えたこともなかったが…
そうか、俺にとっては妹みたいなものだったんだな。
すると、紅羽がポツリポツリと話し出した。
「…私……一人娘であることを自慢して…兄弟なんて面倒だしいらないと言ってたわよね、昔…」
「あぁ、そうだったな」
「でも…本当はずっと霧子が羨ましかった。…いつも近くに賢太郎がいて……羨ましかったの」
「あぁ…」
だからいつもキリに突っ掛かってたのか。
「小学生の頃……本当に賢太郎のことが好きだったわ……いつも困った時に助けてくれる、優しいお兄ちゃんの賢太郎が…」
「…あぁ」
「だから…高校生になって…賢太郎に許嫁を断られても……心のどこかで、賢太郎は私がお願いしていれば…きっといつかは結婚してくれる…って思ってた…」
「…あぁ」
「でもこの前……久しぶりに会った賢太郎が私に冷たくて……賢太郎はもう…私が好きな…優しいお兄ちゃんの賢太郎じゃなかった……」
「まぁ…そうだな」
「それで私…気付いたの……本当の賢太郎を…一人の男性としての賢太郎のことを…私は何一つ知らないって」
「あぁ、そうだろうな。俺が高校で東京に行ってからは全くと言っていいほどプライベートで話すことはなかったからな、俺の性格も含めて知らなくて当然だ」
「…えぇ、そうよね。…どうやら私は…いわゆるブラコンを拗らせていただけみたい…」
父親の事でショックを受けた紅羽に追い討ちをかけるようで心苦しいが、これは言っておかねばならないから。
ふ…と軽く息を吐いて、口を開いた。
「…俺は紅羽のことは、キリと同じように見てきたこともあって妹の様にしか思えない。だから…すまないとは思うが、紅羽を一人の女性として見たことはないし、今後も見れないと思う。何より…俺は昔から那知しか愛せないんだ」
随分ハッキリと断ってしまったが、意外にも紅羽の声は落ち着いていた。
「えぇ…私を女として見ていないことはわかってた。それに…私はどう足掻いても那知さんには勝てないわ。…あんなに清廉で素敵な方だもの、賢太郎が大事に思うのもわかる」
「紅羽…」
「前に…私が『勝った方が賢太郎と結婚』と提案した時に、那知さんは『大切な場所を私的な争いに使いたくない』と…そう言ったわよね。…そこでもう、私は負けを確信したの、この方には勝てないって。…きっとおじさまも同じ様に思ったんじゃないかしら」
「…あぁ」
「だから……許嫁のお話はもうおしまい。無かった事にしましょう」
「そうか、紅羽にそう言ってもらえるとありがたい」
これで親父も納得するだろう。
「でも…最後に一つだけお願いがあるの」
「お願い?…何だ」
抱いてくれとか無茶な要望を言われるのでは…と少し身構えたのだが…
「…これからは賢太郎を…お兄様と呼びたいのだけど…いいかしら…」
と言われ、拍子抜けした。
「あぁ、俺はかまわないが」
「ありがとう……お兄様」
俺の胸で顔を上げて礼を言う紅羽の頬に、少し赤みが戻ってきた。
「…少しは落ち着いたみたいだな」
「えぇ、優しいお兄様のおかげですわ」
これで紅羽との結婚話も無くなったし、一件落着かと思われたその時、後ろの方からガチャ…と小さな音がした。
「社長、何してんすか……シノのいない所で浮気っすか」